ホーム - 製品トピックス - 2光子励起顕微鏡による生体深部イメージング〜顕微鏡の使い方ノート(羊土社刊)より抜粋〜

2012.01.19

多光子励起レーザ走査型顕微鏡 FV1000MPE 2光子励起顕微鏡による生体深部イメージング〜顕微鏡の使い方ノート(羊土社刊)より抜粋〜

はじめに
図1 Cy3で標識したカイコの触覚神経上を走行するcGMP含有細胞のプロジェクション画像

図1 Cy3で標識したカイコの触覚神経上を走行するcGMP含有細胞のプロジェクション画像
画像データ提供:北海道大学電子科学研究所 青沼仁志先生

2光子励起顕微鏡の大きな特徴の1つは、通常の蛍光顕微鏡(レーザー顕微鏡を含む)が不得意とする不透明標本の深部観察性能であり、生体組織の内部を非侵襲のまま蛍光観察できることである。例えば、脳スライスや臓器、皮下組織など厚みのある生体組織切片の内部観察は勿論のこと、生きた個体のままでのin vivo蛍光観察に最も適した顕微鏡観察手法だと言える(図1)。

なお、顕微鏡以外の生体内観察手法、例えばMRIや超音波、X線CTと比較すると観察可能な深さは劣るが、分解能の高さでは他を圧倒している。本項では、特にマウス脳のin vivoイメージングを中心に、2光子励起顕微鏡の最も重要な特徴である、生体の深部を、明るく、解像よく見るコツを紹介する。

原理

2光子励起顕微鏡は、1つの蛍光分子が2つの光子を同時に吸収して励起状態となる非線形光学現象を利用している。そして、その励起状態からエネルギーの低い安定した状態に戻る際、エネルギーが蛍光として放出され(図2)、その蛍光強度を測定して画像を構築する。蛍光吸収波長のほぼ倍の波長をもつ近赤外光を集光することにより、光子密度の高い焦点のみ蛍光分子を励起することができ、ピンホールなしで共焦点観察法と同等なセクショニング画像を得ることができる※1

図2 原理図

図2 原理図
1光子励起(a)と2光子励起(b)の違い

自然界で1個の分子に2個の光子が同時に当る確率は1,000年に1回程度と非常に稀であり、2光子励起の現象を強制的に起こすためには、光子密度を極度に上げる必要がある。光源として、パルス幅がフェムト秒オーダーで、かつピークパワーの大きなパルスレーザーを用いるのはこのためである。
なお、フェムト秒オーダーの超短パルスを用いると、照明系や対物レンズを通過する間に、ガラスの色分散によりパルス成分の時間遅延が起こり、パルス幅が広がって光子密度が低下してしまう。そこで、照明系の中に負のパルス分散を発生させる分散補償光学系を入れてシステム全体としてパルス幅を極小に補償することも一般的に行われるようになってきている。

顕微鏡・関連機器の構成(図3)
共焦点レーザースキャン顕微鏡との違い

2光子励起顕微鏡では、共焦点検出法のようなピンホールを介しての蛍光検出は不要であるため、標本からの蛍光を照明光と同じスキャン光路に戻して(デスキャン)検出する必要もない(原理、特徴・メリット 参照)。
デスキャンをせずに光を検出する検出器の総称をノン・デスキャン検出器と呼び、透過照明用コンデンサー側に配置することも可能である。

図3 2光子励起顕微鏡の構成(オリンパス社 FV1000-MPE)

図3 2光子励起顕微鏡の構成(オリンパス社 FV1000-MPE)

特徴・メリット

生体の深部観察における2光子励起顕微鏡の特徴を以下にまとめる。

  1. 近赤外光を励起に用いるため内部散乱の影響を受けにくく、生体深部の観察が可能(図4)

  2. 光子密度の高い焦点位置だけが励起されるため、蛍光検出光路にピンホールを配置せずとも共焦点観察法と同等の三次元分解能が実現できる(図5)

  3. そのため、対物レンズに近い場所で蛍光検出を行えば、散乱光を含めて多くの蛍光が検出可能

  4. 焦点面付近以外は励起されないため、蛍光の褪色が少なくなり、併せて光毒性も抑えられる

図4 励起波長の違いによる生体深部への到達度

図4 励起波長の違いによる生体深部への到達度

図5 1光子励起と2光子励起の空間的な励起領域の違い

図5 1光子励起と2光子励起の空間的な励起領域の違い

2光子励起による蛍光の発光効率(I)は以下の式1で表され、励起光の平均パワーの2乗に比例し、集光位置でのレーザーのパルス幅に反比例するという特徴を有する※2,3

式1

これら2光子励起顕微鏡の特徴を最大限に生かし、生体の深部観察を実現するポイントは次の2点に集約される。

  • 散乱体である生体の奥深くで2光子励起を効率よく起こす

  • 生体内部で発生し拡散した蛍光をできるだけ多く取り込む

いずれも、使用する対物レンズが実現の鍵といって過言ではないため、後節“脳内深部イメージングのための対物レンズのススメ”にて最適な対物レンズの選び方を詳しく説明する。

脳内深部イメージングのための対物レンズのススメ

ここでは、2光子励起顕微鏡の深部観察性能を大きく左右する対物レンズの選び方について説明する。

1.可視〜近赤外域の透過率の高い対物レンズを使う

脳は強い光散乱体であり、観察部に届くレーザーの強度は、その深さに依存して指数関数的に減衰する。
さらに、2光子励起では蛍光の発光効率が励起光の平均パワーの2乗に比例する(式1より)という特徴を考慮すると、励起レーザー光のパワーロスを発生させないように近赤外波長で高透過率の対物レンズが要求される。勿論、蛍光波長での透過率の重要性については言うまでもない。

2.脳の深部を観察する場合はインデックスミスマッチ補正が重要
図6 浸液と標本のインデックスミスマッチが集光性能に与える影響

図6 浸液と標本のインデックスミスマッチが集光性能に与える影響(拡大

光学系の透過率を上げることに加え、励起光の集光スポットをいかに小さくし光子密度を上げるかが重要なポイントである。レーザー発振波長で収差補正がなされていること開口数(N.A.)が高いことは勿論重要であるが、脳の深部観察でさらに大事なのがインデックスミスマッチの補正である。
インデックスミスマッチとは、対物レンズの浸液と標本の屈折率の違いで引き起こされる集光エラーのことである。生体深部を観察する場合、その観察深さに依存して、浸液(水)と生体の屈折率差により発生Zする収差が大きくなり、集光性能が劣化して、明るさや解像に影響を与える(図6)。

図7 インデックスミスマッチ補正環を備えた対物レンズ(オリンパス社 XLPLN25XWMP)

図7 インデックスミスマッチ補正環を備えた対物レンズ(オリンパス社 XLPLN25XWMP)

近年、インデックスミスマッチ用補正環機構を搭載した対物レンズが実現されており(図7)、その顕著な効果が実証されている(図8)。観察したい深さに合わせた収差補正が可能になっている他、カバーガラスの有無も補正できるものもあり、頭蓋骨を開口した場合のカバーガラス使用にも最適な深部イメージングが可能である。

図8 補正環によるインデックスミスマッチ(カバーガラス厚)補正の効果

図8 補正環によるインデックスミスマッチ(カバーガラス厚)補正の効果

3.N.A.と検出視野の大きな対物レンズを使う

脳の深部イメージングでは、検出できる蛍光光量は主に開口数(N.A.)と標本側観察視野の大きさで決まる。N.A.については観察手法や標本によらずその2乗に比例することはよく知られているが、検出視野の重要性に関しては、散乱標本を観察する際の2光子励起顕微鏡特有の性質である。2光子励起は標本中の1点で起きるが、そこから発する蛍光は標本内部で強く散乱され広範囲に拡散する。この拡散した蛍光をできるだけ多く取り込むには視野の広い“低倍率、高視野数”対物レンズが有利であり、検出効率は標本側観察視野の面積に比例する※4。図9にこの概念図を示す。

図9 検出側視野数の大きさと蛍光強度の違い

図9 検出側視野数の大きさと蛍光強度の違い

参考文献

※1 Centonze, V. E. & White, J. G. : Biophys. J., 75 : 2015-2024, 1998

※2 Denk, W. et al. : Science, 248 : 73-76, 1990

※3 Theer, P. et al. : Opt. Lett., 28 : 1022-1024, 2003

※4 Oheim, M. et al. : J. Neurosci. Methods., 111 : 29-37, 2001

出典情報

無敵のバイオテクニカルシリーズ
改訂第3版 顕微鏡の使い方ノート 羊土社刊
野島 博/編

関連リンク

2光子現象が生命科学の新しい境地を拓く
慶應義塾大学医学部薬理学教室 塗谷睦生 先生

超深部観察を実現する、標本の透明化液と専用対物レンズ

多光子励起レーザー顕微鏡 アプリケーション一覧製品情報 多光子励起レーザ走査型顕微鏡 FV1000MPEお問い合せ
1